日本代表は近年、着実に力をつけており、FIFAワールドカップやAFCアジアカップで好成績を収めてきました。その結果、アジアでは1,2を争う強豪国に成長し、世界で戦える国として認識されています。しかしその反面、カタールワールドカップではベスト8の壁を越えることができず、最近ではアジアカップでも厳しい現実を突きつけられました。
今回の記事では、日本代表の戦い方と課題について分析し、ベスト8の壁を越えるために必要な要素を探っていきます。
日本代表の主な成績
年月日 | 成績 |
2011年 | AFCアジアカップ優勝 |
2014年 | FIFAワールドカップベスト16 |
2015年 | AFCアジアカップ準優勝 |
2019年 | AFCアジアカップ優勝 |
2022年 | FIFAワールドカップベスト16 |
※2010年代以降の成績です。
過去の監督
アルベルト・ザッケローニ(2010~2014)
出身 | イタリア |
主な成績 | 2011アジアカップ優勝 |
監督の特徴 | 攻撃的サッカーで人気を博した |
ハビエル・アギーレ(2014~2015)
出身 | メキシコ |
主な成績 | 2015アジアカップベスト8 |
監督の特徴 | 攻撃的なサッカーで日本代表を活性化した |
ヴァヒド・ハリルホジッチ (2015~2018)
出身 | ボスニア・ヘルツェゴビナ |
主な成績 | 2018FIFAワールドカップベスト16(西野朗監督) |
監督の特徴 | 厳しいトレーニングと規律でチームを鍛えた |
森保一 (2018~現在)
出身 | 日本 |
主な成績 | 2019アジアカップ準優勝 2022FIFAワールドカップベスト16 2024アジアカップベスト8 |
監督の特徴 | 選手の個性を活かした柔軟な戦術を展開 |
日本代表の過去戦績(2010~2024)
※国際親善試合、AFCアジアカップ、FIFAワールドカップ予選・本大会を含みます。
年度 | 試合数 | 勝 | 分 | 敗 | 得点 | 失点 | 勝率 |
2010 | 14 | 8 | 3 | 3 | 27 | 14 | 57.1% |
2011 | 17 | 11 | 2 | 4 | 31 | 19 | 64.7% |
2012 | 11 | 7 | 1 | 3 | 20 | 10 | 63.6% |
2013 | 15 | 8 | 2 | 5 | 34 | 20 | 53.3% |
2014 | 16 | 10 | 2 | 4 | 29 | 17 | 62.5% |
2015 | 12 | 7 | 1 | 4 | 23 | 16 | 58.3% |
2016 | 11 | 7 | 1 | 3 | 24 | 12 | 63.6% |
2017 | 9 | 5 | 2 | 2 | 17 | 8 | 55.6% |
2018 | 14 | 7 | 3 | 4 | 24 | 13 | 50.0% |
2019 | 17 | 12 | 2 | 3 | 40 | 13 | 70.6% |
2020 | 4 | 2 | 1 | 1 | 7 | 5 | 50.0% |
2021 | 11 | 8 | 1 | 2 | 28 | 8 | 72.7% |
2022 | 14 | 7 | 1 | 6 | 21 | 17 | 50.0% |
2023 | 7 | 4 | 1 | 2 | 14 | 7 | 57.1% |
2024 | 6 | 4 | 0 | 2 | 17 | 8 | 66.7% |
日本代表のスタメンと基本フォーメーション
日本らしい戦術とは?
カウンター攻撃と後半からのスピードスターの投入
カタールワールドカップ以降、基本的には4-2-3-1。守備時に状況に応じて可変するフォーメーションを採用しています。前半はボールポゼッションを重視しながら、相手の隙を突いてカウンターを狙う。後半、相手チームが疲れてきたタイミングで、スピードスターを投入し、攻勢を活発化させる。両サイドの攻撃的な選手が積極的に仕掛け、中央へのクロスやドリブル突破で得点チャンスを演出する。守備は組織的に行い、カウンター攻撃を防ぐ。
技術の高い選手や個性のある選手が多いので選手の個性を活かした戦術を採用しているのでしょう。
日本代表の攻撃戦術
現代表の戦術はまず前提条件が「守備ありき」です。ということは攻撃は奪い返した直後から想定しているのですね。サイドからのカウンター攻撃が基本となっているのは必然的とも言えますね。
このカウンターの生命線とも言えるのが
①攻守のトランジションスピード
②質の高いパス
③個で勝負できるサイドのプレイヤーの存在 です。
特に③が重要になってきます。現在であれば、三笘選手や伊藤純也選手の存在が挙げられますね。
日本代表の守備戦術
守備のシステムに関しては攻撃に比べると整備されていると考えます。ドイツ・スペインをハメることに成功したからという事実が主な理由ですが、その一方でアジアカップのようにロングボールの対応という面でかなり脆弱性が認められます。
日本代表は状況に応じてライン設定を変化させ、オフサイドトラップやスペース確保など攻守における各種効果を享受するために課題となるフィジカル、組織力を選手強化と組織力向上により、攻守のベースとなるラインコントロールを進化させることでチームの基準を構築できるはずです。
①どこにプレスをかけるのか
②どこにブロックを築くのか
③どこに人数を割くのか
それぞれを明確にし、「どの高さでどうやってハメるのか」をピッチの選手に伝えることも重要な要素になってきます。
日本代表の戦術の懸念点
先述の通り、強豪国とはある程度戦える反面、いわゆる格下と戦った時に弱さを露呈すると言えます。イラン戦のように縦に大きく「蹴られて」しまった時などがわかりやすいと思います。高さやフィジカルといった面で他国に劣る分、ラインコントロールなどのチーム全体としての戦術や選手それぞれの意志共有がしっかりと出来ていないと、そういった相手に対して弱さを見せることとなります。これが一番の懸念点です。
その他にも、センターバックが狙われた時、ボランチのプレスが無効化された時、最終ラインへのプレスを放棄した時、サイド攻撃が無効化された時、チーム全体で動かないと世界では勝てないということではないでしょうか。今後はワールドカップ予選を迎えます。アジアカップの「日本対策」が有効だと世界中にバレてしまったとも言えます。ここはなんとか修正してほしいポイントです。
日本代表ベスト8の壁
日本代表はカタール以外にも2010年、2018年にもベスト8の壁に挑んでいますが、残念ながら乗り越えるには至っておりません。ではどうすればベスト8の壁を乗り越えることができるのかを考えていきたいと思います。様々なデータがありますが、その中で一つ気になったデータがこちらです。
カタールワールドカップ2022 日本人選手デュエル勝率トップ5
順位 | 名前 | 身長/体重 | 出場試合数 | デュエル勝率 |
1位 | 吉田麻也 | 182cm/83kg | グループステージ全4試合に出場 | 67.69% |
2位 | 板倉滉 | 188cm/83kg | グループステージ全4試合に出場 | 65.22% |
3位 | 遠藤航 | 178cm/74kg | グループステージ全4試合に出場 | 64.29% |
4位 | 富安健洋 | 188cm/83kg | グループステージ3試合に出場 | 63.33% |
5位 | 伊藤純也 | 172cm/68kg | グループステージ全4試合に出場 | 61.54% |
カタールワールドカップ2022 全選手デュエル勝率トップ5
順位 | 名前 | 身長/体重 | 出場試合数 | デュエル勝率 |
1位 | イブラヒム・ムスタファ(ガーナ) | 182cm/83kg | グループステージ3試合に出場 | 76.92% |
2位 | ダニエル・アマルティ(ウルグアイ) | 187cm/83kg | グループステージ3試合に出場 | 75.00% |
3位 | ニコラ・ヴラシッチ(クロアチア) | 180cm/73kg | グループステージ3試合に出場 | 73.91% |
4位 | イヴァン・ペリシッチ(クロアチア) | 187cm/80kg | グループステージ3試合に出場 | 73.68% |
5位 | セルヒオ・ブスケツ(スペイン) | 185cm/76kg | グループステージ3試合に出場 | 73.53% |
デュエル勝率は各メディアで違いますので、このデータが絶対に正解とは思わないでください。
あくまで今回見つけたデータで読み解くと、やはり大きな差を感じます。データも2022年と少し古いので信憑性も低いのですが。
このデータから分かったのは、日本人選手はフィジカルが弱いというより、デュエルに弱いというのが正解ではないか?ということです。特にハイボールの競り合いですよね。物理的にどうしてもそこで不利になってしまう我々としてはそこで勝つために何とかするのか、競り負けたあとのリカバリーで対処するのかをもっと突き詰めて考えていく必要があるのかもしれません。
この競り合いであったり球際の強度といった、いわゆるデュエルの強さがベスト8の壁を打ち破るカギになるのかなと思います。
日本代表とベスト8以上の国の違い
カタールワールドカップで勝ち進んだベスト8の国をざっと羅列していきます。
・アルゼンチン
・クロアチア
・イングランド
・フランス
・モロッコ
・オランダ
・ポルトガル
・ブラジル
いわゆるサッカー強国がずらっと並んでいますが、その中で唯一「ん?」となる国が一つ…。
そう、モロッコなんです。実はこの国、最終的にベスト4まで進んでいるんですが、このカタール大会までは日本と似たような成績だったんですよね。 過去6大会に出場、最高位は30年以上前にベスト16が1回だけ。そんな国がベルギー、スペイン、ポルトガルを下してベスト4なんです。
ではそんなモロッコを含め、ベスト8以上の国とベスト16で敗退となった我々日本で、何が違ったのでしょうか?個人的な意見になりますが、その違いは勝負強さにあると思っています。もちろん、戦術や選手層といった部分での差もありますが、ここぞという時や絶対にこの球際には負けられないといった場面での強さ、プレッシャーのかかった場面での冷静さなど、ワールドカップという大舞台での勝負強さの差が大きいかなと思います。
カタールワールドカップでの日本代表のパフォーマンスは素晴らしいものだったと思いますし、技術的にも負けていなかったと思いますが、そういった部分での強さが命運を分けたのではないでしょうか?
ベスト8以上の国が一貫している戦術
上記のベスト8チーム全てで採用されていた共通戦術が「可変システム」です。
現在では多くのクラブチームでも採用されていますが、どういった「可変」をするのかは各チームで違います。守備時4-4-2→ビルドアップ時4-2-1-3や、攻撃時4-4-2→カウンター被弾時3-5-2など様々なパターンがあり、システムや役割が変化することを可変システムと呼んでいます。
強豪国がこういった戦術を採用するのは納得感があるのですが、この中では強豪国でないモロッコも攻撃時4-1-2-3→守備時4-1-4-1に可変しているのです。採用される理由としては当然のことですが、「守備時の失点リスクを減らす。」「攻撃時の得点機会を増やす。」最終目的はこの2点です。この最終目的を果たすための手段として「ビルドアップ時は4-2-2-2」など自チームにとってベストな選択をするのです。
ちなみにですが、残念ながら当時の日本は可変システムどころではありませんでした…。森保監督解任が叫ばれる中でワールドカップに突入していった当時、結果を出すため割り切った戦い方を突き詰める必要があったのです。
ベスト4以上の国が取り入れている戦術
個人的にはこの準決勝あたりから「ボールを持ちたがらない」チームが増える印象です。どんなに攻撃的なチームでも突然「堅守速攻」のチームとなる。
そんなベスト4ですが、どんなチームでもここまでたどり着いた時点で満身創痍、選手層がモノをいう世界です。選手層といっても単純に入れ替わって頑張ってねという訳にはいかないです。代わりに入った選手も同等以上のタスクをこなす必要があります。どの選手が出ても戦術的リスクにならない、普段通りの戦いができるというのはベンチとしては理想的な形となります。
そしてもう一つはユーティリティ性の高い選手がどれだけいるかということも重要な要素になってきます。例えば前半をウイングのポジションで出場し、後半5バックのサイドとして守備のタスクを完全にこなす。こんな選手を複数抱えることができるチームは当然ながら強いです。
実質2つ、3つのターンオーバーを可能としてくれるわけですから。戦術とはちょっと違うかもしれませんが、ベスト4以上を目標として掲げているチームはこういったチーム作りをしているように思います。予選も楽になりますからね。 日本代表もワールドカップを獲るという目標がある以上、こういった底上げも同時に行なっていかなければならないということです。明確にコンセプトを打ち出して育成しないと、選手はいきなり育ってくれません。
まとめ
まとめますと、今後日本代表がベスト8の壁を突破するためには、
①今回のアジアカップのようなことはあってはならない。
②ラインコントロールの見直し。
③デュエル勝率を上げる。
④可変システムの導入、できれば複数パターン。
⑤ユーティリティ性の高い選手を複数人育てる。
これらが今後重要な要素となると考えています。皆様はどうお考えでしょうか?
初出場してから数十年、日本は確実に強くなってきました。しかし世界も強くなっています。このままでは追いつくのは当分先になってしまいます。是非とも成長スピードをあげてもらって死ぬまでに日本が世界を獲るところを見せてほしいです。日本国民全員で強化していきましょう!
では、また。